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みずいしのブログです

「天ノ少女」レビュー

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殻ノ少女 2008年7月4日発売、
虚ノ少女 2013年2月8日発売、
天ノ少女 2020年12月25日発売。

12年以上シリーズを追い続けた私の偏執(パラノイア)は解消され、清々しさと僅かな寂しさが残った。
殻ノ少女シリーズ3部作の完結編。
2015年末のInnocent Grey10周年記念コンサート「神曲」で天ノ少女が発表されてから約5年待ったが、待ち続けて良かったと心から思えた作品。

前半ネタバレなしレビュー。
後半ネタバレありレビューを追記。

シリーズ3作目だからこそできる潔さ

大前提として、本作は前2作をプレイしたファン向けのアンサーソングであり、本作のみをプレイする事は一切想定されていない。
つまり、本作を人に勧めるときは
「天ノ少女とても面白ので是非とも殻ノ少女をプレイして肌に合ったら続編の虚ノ少女をプレイしてその後で天ノ少女をプレイしてくれ」
と勧めなければならない。
もし私が本作を知らなかったとして、このように勧められても絶対プレイしないと思う。ハードルが高すぎる。

ただ、このハードルの高さ故に、メーカー側とユーザー側のある種「信頼関係」が生まれたと思う。お互いに本作に何を求めているかがはっきりとしているからだ。
殻ノ少女から脈々と続く偏執(パラノイア)を解く事、本作はその1点について一切妥協することなく完成させた。

あとこれはネタバレには当たらないと思うので先に言ってしまうが、この作品、18禁ゲームのくせにえっちシーンが無い。マジかよ。
メニューにシーン回想自体が存在しないのでまさか…とは思ったがマジで無い。厳密に言えば濡れ場はあるが、シーン回想を実装する必要性が無いレベルなのでマジで無い。
他の作品なら18禁詐欺だと言われても仕方ないが、シリーズ3作目の本作だからこそ出来た「信頼関係」によるものだと思う。もちろんそういうシーンを期待していて残念がる人は多くいるとは思うが、無理に描写して物語の蛇足になるくらいならバッサリ削ってしまうという潔さに、素直に感心した。

積み重ねた年月が持つ現実味(リアリティ)

1作目の殻ノ少女から数えると実に12年以上経って発売した完結編。プレイ前、本作品のクオリティに対して不安は一切なかったが、自分自身の記憶に不安があった。殻ノ少女を最後にプレイしたのは何年も前なので、細かい記憶が薄れていて今作を十分楽しめないのではないか?という点である。

結論から言うと、過去作の薄れた記憶が妙な現実味(リアリティ)を帯び、より本作の世界観に引き込まれることになった。

そう、殻ノ少女はもう昔の話、過去なのだ。

殻ノ少女虚ノ少女→天ノ少女と作品の時間軸は進んでいく。天ノ少女をプレイする時点で「殻ノ少女で起こった過去の出来事が徐々に記憶から失われている」という状況がシリーズの主人公:時坂玲人の状況にピタリとはまってくる。
主人公が過去の偏執(パラノイア)に囚われている今作の状況が、12年も前の殻ノ少女から追い続けている自分自身に、どうしても重なってしまうのだ。これに関しては制作側が狙った訳ではないはずだが、シリーズ完結にここまで時間がかかったことすら意図された演出に思えてしまうくらいに。

変わらぬ不親切さ

作品としては素晴らしいが、システム面での不満点が結構ある。

・捜査パートや推理パートが難しすぎる。というか不親切すぎる。事件の真相知らない1周目で手こずるのはともかく、犯人知ってる2周目なのにどの選択肢が正解なのか分からない。単なるバグだとは思うが直前のバックログが見れないので、既読スキップしてると何を聞かれているか分からなくなる事も。

・周回プレイ必須なシステムなのに機能として「既読スキップ」と「次の選択肢までスキップ」しかないので、CG回収やED回収が面倒。どこでシナリオが分岐するのか、フラグが分からない。シナリオのフローチャートや章ごとの開始/スキップ機能が欲しい。

これらシステム面の不満は12年前からずっと言ってて、若干(本当に若干)改善した部分もあるが、それでもあまりにも進歩がない。餅は餅屋、という訳ではないがシステム面強いメーカーが主導して業界全体で共通UIとか開発したほうが良いんじゃなかろうか。

総評

本作品単体で見るならば、不親切なシステム面やシナリオの不十分さなどで-20点の80点くらいが妥当だろう。だが、シリーズ通してプレイした人に向けたアンサーソングである本作品を単体で評価することに意味があるとは思えない。

では、シリーズ通しての評価はどうか。

先述の通りシステム面での不満はシリーズ通して解消されず不親切さは目立つが、殻ノ少女から続いた長い物語の結末を迎えたことで、正に憑き物が落ちたような感覚を得た。作品中の登場人物はまだ旅路の途中ではあるが、私の旅路はここでひとつの終わりを迎えたのだと。それが無粋なことであるのは承知の上で、その時の気持ちに点数をつけるならば、曇りなき100点である。

単体で勧められないため人を選ぶ作品ではあるが、「殻ノ少女」と「虚ノ少女」をプレイした方は絶対にやってほしい。

 

 

 

※以下、ネタバレあり※

 

 

 

瑠璃ノ鳥

本作品で一番印象深いシーンは、やはりTrueENDの一連の流れ。エピローグが始まってすぐ、この後に続く展開に気づいた時は本当に震えた。総評とかなんとか言って色々御託を並べたけど、このTrueENDを見れただけで100点よ。
あの声とあのシーンは1作目から何年経っても忘れられないくらい印象に残っているので、こういう形で回収されるのは感慨深い。

そして流れる殻ノ少女のOP曲「瑠璃の鳥」のピアノ伴奏、これまでのシナリオがフラッシュバックして感慨深いものがある。さらにエンディングに流れる「瑠璃ノ鳥」の歌詞。殻ノ少女の「瑠璃の鳥」を数え切れないほど聴き込んでいたので、「瑠璃ノ鳥」の歌詞が変わっている箇所で受けた衝撃と感動はすごかった。HappyENDとはまた違うのかもしれないが、長い年月を経て再び瑠璃ノ鳥と出会うことが出来たということを素直に喜びたい。

他の登場人物で言うと、朽木千鶴&文弥の2人に専用BADENDまで用意されているのは嬉しかった。虚ノ少女からこの2人には注目してたけど、常人面した2人の真の異常性がちゃんと描かれていて満足できた。むしろもっと活躍を見たかった。

シリーズで一番好きなキャラクターの時坂紫ちゃんが真崎と良い感じになるのは個人的には解釈違いなんだけど、その気持の大部分は真崎なんかに紫はやらん!という単なる親バカな心なので別にマイナスポイントでは無かったです。直接の描写も無かったし。

八木沼の奴はカルタグラの頃はクソうざいキャラだったはずなのに、本作ではもう愛されキャラになってるの凄い。全体的に男性キャラの魅力を引き出すの上手いよね。結局このシリーズをここまで追えたのって、主人公の時坂玲人が無茶苦茶カッコいいからよ。

他に書くことあるかもしれないがこの辺で筆を置き、もう何回見たか分からないTrueENDを見て、余韻に浸ろうと思います。